From Chuhei
 
マイナンバーカード 表と裏 (総務省HPより)
   
 
家計金融資産と国の借金はどのように推移している? (財務省HP「 日本の財政を考える」より)
 
 
金融商品保有額の種類別構成比(2人以上世帯)(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」平成27年より)
 
 
金融資産保有率の変化(金融広報中央委員会 「知るぽると」 2015年11月6日 より)
 
 
閻魔大王像 (深川閻魔堂「法乗院」HPより)
 

  マイナンバー       

 

 

 マイナンバーの通知書が送られてきたのは昨年、平成27年の11月の中旬だった。

長年にわたり検討され、色々と問題にもなった国民総背番号制度、それがいよいよ現

実に実施され私の番号も遂に決まったのである。

 

 国家権力が国民一人一人の情報を把握して、「国のため」として活用することは、

かつての徴兵制度や終戦前の男女全国民義勇兵制度、そして戦後、昭和21年の全国

民の預金封鎖などを知っている私は、今までマイナンバーに強い抵抗感を持っていた。

 

 総務省の説明書によると、マイナンバー制度の目的は、国民の利便性の向上(申請

書類などの添付が減る)行政の効率化(手続きが早くなる)公平・公正な社会の実現

(正確な所得の把握)をあげている。が、この制度導入の初期費用だけで2700億

円、さらに運用開始後の維持費などは年300億円が必要という膨大な予算をさいて

実施する本当の目的は説明書だけのものではないと思われる。

 

 そして、昨年の改正マイナンバー法により、この制度が平成30年から預金口座に

も適用されることになった。さらに三年後には全金融機関に取引先のマイナンバー登

録を義務付けする方向で進められている。反対を恐れて実に慎重に時間をかけてはい

るが、最終的には国民一人一人の預金、保有証券を含む資産残高を把握した上での徴

税の強化と、国家債務の裏付けとしての国民資産の対応を計ることがその最終目的で

あろうと私は思っている。

 

 しばらく私は、マイナンバー通知書は引き出しに入れたままにしていたが、すでに

12桁のナンバーが決まっている以上、マイナンバーカードを作って、その活用を考

えたほうが良さそうだ、と思うようになった。私は妻と通りかかった戎神社参道にあ

るいぬづか写真館で「マイナンバーの写真は当店で」という宣伝文句にひかれて写真

を撮影した。その写真を通知カードの裏に貼り、同封されていた返信用封筒で郵送し

て、カードの交付申請をした。送ったのは平成28年の1月の末だった。

 

 それから4ヶ月後、5月下旬にやっと交付通知書が届いた。西宮市役所東館8階に

交付特設窓口が設けてあって、そこにマイナンバーの通知カードと本人確認書類(住

基カードがあればそれを提出)を持って受け取りに行くことになっていた。6月の初

めに電話をして、6月9日の11時15分に予約を取って、妻と出かけた。部屋一杯

に機械が並べられ仕切りをしたコーナーが三ヶ所あって、そこで数字四桁の暗証番号

(基本台帳事務用・入力補助用・個人認証番号証明用)と、英数字六桁から十六桁の

暗証番号(確定申告などに使う個人認証情報の電子証明用)を自分でキーボードを打

って届けた。妻と別々にその手続きが終わると、新しい写真付きのマイナンバーカー

ドがそれぞれに渡された。通知カードと住基カードは回収された。カードの有効期限

はカードの発行日から一〇回目の誕生日まで、電子証明の期限はカードの発行日から

五回目の誕生月までとなっていた。

 

 カードの裏面には12桁のナンバーが記されていた。これからこのナンバーは、こ

のカードのあるなしにかかわらず国民一人一人が、生涯を通じて国の行政管理、徴税

管理に活用されていくこととなる。特に銀行、信用金庫、信用組合の預金口座、証券

会社の取引口座がこのナンバーと結びついた時、徴税には大きな効果を発揮すること

になるだろうと私は思った。例えば相続税だが、被相続人の金融資産残高の裏付けが

確実に出来るようになる。今まで税務当局は金融機関に対する質問調査権はあっても

個々の資産残高の全部を把握していなかった。昨年の基礎控除額引き下げもあり、全

金融機関へのマイナンバーの登録が完了すれば、相続税の徴税額は飛躍的に増大する

ことは確かであろう。

 

 もう一つは財政危機対策としてのマイナンバーである。財務省のホームページ、日

本の財政を考える、の「家計金融資産と国の借金はどのように推移している?」には

次のように書かれている。「これまで、日本の家計金融資産は国債消化を支えてきた。

しかし、資産の伸びを上回る勢いで政府の純債務が伸びれば、財政の信認が損なわれ、

国債の消化を困難にする恐れがある」そして、そこに図で示されている数字は、国の

借金1158兆円に対して、家計金融総資産は1624兆円あり住宅ローンなどの負

債を差し引いた純資産でも1257兆円となっている(平成26年度)。

 

 日本の国の借金額は世界各国と比べてもダントツに多い、GDP比の債務額は世界

最悪である。破綻して再建中のギリシャより多い。それにもかかわらず、ギリシャの

ようにならないばかりか、世界のどこかで金融不安が起これば安全資産として円を買

い日本に資金が集まり円高になる。なぜ、そうなるのか。

 

 その理由の内最も大きいのは、日本人の家計金融総資産が国の借金を上回り、その

中でも個人の預貯金残高の占める割合は先進国の中でも最高であってそれが、日本の

借金の原資を支えているからである。ギリシャの国債はドイツやフランスなどの他国

の政府や投資家が買っているので、返済を迫られると金融危機を起こす。日本の国債

の多くは日本の金融機関が保持していて、今のところ、急に返済を迫られるリスクは

少ない。

 

 ところが、日銀のマイナス金利政策等の影響で少しずつであるが状況は変わりつつ

ある。三菱東京UFJ銀行は、国債を満期まで持ち続けると、逆に利子を払わなけれ

ばならないリスクがあるとして、日本国債の応札が義務付けされる「国債市場特別参

加者」の資格を返上した。と、いうように銀行の国債保有にも、今までにない動きが

あった。また長い期間で見ると、家計が金融資産を保有する割合は近年減少傾向にあ

る。このまま借金膨張傾向が進めば、いつか国債が暴落して、急転直下投機筋から円

売りをかけられ、危機を招かないとも限らない。

 

 このような状況の下、マイナンバーにより、国家が家計金融総資産の個々の所有者

とその額を把握することは、将来の金融危機管理対応に必要だとして、国家が多額の

予算をかけてマイナンバー制度に踏み切ったものと私は考えているのである。

 

 金融危機がおこり、政府の財政が破綻寸前になった場合の取られる措置として預金

封鎖がある。昭和21年2月17日、日本政府は突然、すべての預金を完全に封鎖し

て、預金は自由に出せないことを国民に一斉に告げた。同時に新円切り替えが行われ、

紙幣は銀行に預けなければ、持っていても無効になった。生活のため使える新円は月

額世帯主300円、世帯員100円が限度だった。私は中学3年生だったが、新円の

印刷が間に合わず、旧紙幣に証紙を貼り付けていたことを覚えている。

 

 政府は預金を封鎖したあと、その年の3月3日を基準に全所帯所有財産の申告を義

務付け、財産税を徴収した。当時10万円を超えると25%、100万円を超えると

70%、1500万円を超えると90%を徴税するという資産家にとっては厳しいも

のであった。

 

 このような、政府が国民の資産を把握し、膨れ上がった国家の債務の解消のために、

預金封鎖がなされることを懸念する声は今までにもあった。平成9年当時大蔵省内部

で預金封鎖の検討が行われたとの記事が『文藝春秋』平成14年12月号に出た。ま

た、平成27年2月16日、NHK「ニュースウオッチ9」で「預金封鎖もうひとつ

の狙い」という特集が組まれ、「国の負担を、国民に転嫁する意図」について報道さ

れた。しかしながら、過去何度も納税者番号制度を提唱してきた政府税制調査会では、

「所得や資産等の負担能力を正確に把握し、 制度を適正に運用する観点からマイナン

バーの活用を進めるべきである」としている。平成27年3月10日、麻生太郎財務

大臣は平成33年までに、銀行預金に個人番号を振ることを義務化する意思表示をした。

 

「麻生大臣の本音は、今すぐにでも銀行預金にマイナンバーを義務付けたかったのだ

ろうなぁ」と、私は思った。恐らく今までの国民総背番号制に対する猛反発をやわら

げ、年金機構の年金番号流出のような問題が起こらないように、情報流出を防止する

対策をたてるため、やむをえず慎重に気を使って義務化時期を延ばして決めたのでは

ないかと思える。

 

 マイナンバーの実施には強い抵抗感を持っていた私だが、「低所得高齢者給付金3

万円支給」などの政策を聞くと、低所得者であるかどうかの公平な判断のためにも、

いずれ実施するのであれば、もっと早く預金などの資産にマイナンバーの義務付けを

すべきではないかと、今では思っている。

 

 改めて、マイナンバーカードを妻のカードと並べてみた。私の写真は年齢相応に老

けこんでいるが、妻の写真は少し若く見え、綺麗に撮ってくれていると、本人はすこ

ぶるご機嫌である。ともにカードの有効期限は平成37年の誕生日までである。その

時には、私は90歳を上回っていてこの世にいないかもわか らない。

 

 あの世には閻魔大王が、でんと行方に座っておりその横には、浄玻璃鏡(じょうは

りきょう)という鏡があって死者の生前の行為をのこらず映し出す。大王の書記官は

それを「えんま帳」に記録し、極楽行き(幾段階かある)か、地獄行きかを決める。

 

 私が閻魔大王の前へゆく頃は、マイナンバーカードを示すだけでよくなるだろう。

その時には、私の全財産情報だけではない、医療情報、健康情報、履歴、経歴、賞罰

の明細、社会保障の明細、資格、免許、社会活動記録など、私の「えんま帳」が組み

込まれている。私はあの世の閻魔大王には謹んで、マイナンバーカードをさしだし、

行き先を決めてもらうことに、なんのためらいもない。

 

 問題はこの世である。この世では、果たして誰が責任を持って、私のすべての情報

が組み込まれた時のマイナンバーを、情報が漏れることなく安全に取り仕切ってくれ

るのだろうか。財務大臣か、総務大臣か、自治体の首長か、国税庁長官か、それとも

総理大臣か、私は誰が取り仕切ったとしても、どうしても信用する気にはならない。

心配することになりそうである。

 

                  (平成28年6月30日)

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宙 平 

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